推薦のことば

「しまみらい自然学校」の魅力

ゴールデンウィークの直前、「しまみらい自然学校」のプレオープンの案内をいただき、急遽、志摩に出かけることにしました。

第一の理由は、志摩の新鮮な海産物はさぞ美味しかろう、という胃袋の要求です。この点はプレオープンの特別メニューだったからでしょうが、300%の大満足でした。自然学校の運営が軌道に乗れば、オーナー所有の船での海釣りも視野に入れているようです。

二番目は、出版社の経営で多忙な大久保さんが、あえて志摩で自然学校を開いた真意と、どんな自然学校を創ろうとしているかを、現場に立って確認したいという抑えがたい好奇心。利用者に美味しい料理を提供するために、「辻調」の通信講座とスクーリングで2年間修行をしたというエピソードを伺いましたが、志摩の力強い自然の中で何かをしたいという思いに抗しがたかったのでしょう。以前に志摩の魅力を伺った通り、多くの参拝客が押し寄せる伊勢と違って、志摩まで南下すると自然の迫力は格別でした。照葉樹林の新緑は黄金色に輝き、落葉樹の新緑とは一味も二味も違っていました。横山展望台周辺の散策路で出会ったウバメガシやクスノキの幹の力強さも半端ではありません。熊野灘からの風雨がこの逞しさを培ったのだろうと、勝手に推測しています。

どんな自然学校を創ろうとしてるのか、という点では二つのことを感じました。玄関を入ったところに置かれた二つの大きなハリネズミのぬいぐるみ。各部屋にも小さなハリネズミ君がいました。都会の喧騒から離れて、豊かな自然に囲まれた環境の中でゆったり癒されるような時間を過ごすことを重視しているのだろうということ。もう一つは、あらかじめきっちりとしたプログラムを用意して、「さあ、みんなでこれをやってみましょう」というスタイルではないな、ということ。利用者と一緒に「どうしたら自然と共生しながら自然を満喫できるのか」を考え、その思いが活動に結びつくような自然学校。つまり利用者とともに創っていく自然学校を構想しているのではないか、ということです。

今回の訪問で一番記憶に残っているのは答志島探訪。伊勢フェリーターミナルからわずか40分の答志は、道幅2m前後の昔のままの漁村集落の姿を止めていました。浜辺の道を歩いていると、海女小屋があり、そのわきでは夫婦がドラム缶でヒジキを炊いていました。少し離れたところでは、干したワカメの取り入れも行われていました。その女性は、以前は海に潜っていたそうです。今回は時間切れで叶わなかったのですが、ヒジキを浜辺で採ってゆでたり、あるいはワカメを干すのを手伝ったり、といった昔ながらのなりわいをちょっぴり経験させてもらう。そんな時間も自然学校の中にあっていいのかなと思いました。

諏訪 哲郎 (スワ テツオ)
学習院大学名誉教授。理学博士。
杉並区立西田小学校学校運営協議会会長。日本環境教育学会元会長。
退職後も、日中韓の環境教育交流や「西田こども未来研究会」の活動に参画。